¥ 300,000 (税込)
ふと、目が覚めた。薄闇の中、枕元の電気時計をぼんやりと眺める。文字盤がぱたり、と音を立てて5時46分。突然、体を放り出されるような強烈な揺れに襲われて飛び上がった。
立つことなどできない。床が、壁が、家全体が音を立てて激しく揺れていた。ゆっくりとした振動ではない。強く絶え間のない、激しい縦と横の揺れだ。柱にしがみつく間にも、揺れはますます大きくなってゆく。
関西に大きな地震は来ない、などと聞かされて育った。その地面はいまや傾ぎ、歪み、立つこともままならない。
揺れがおさまるまで、かなり時間がかかったような気がする。余震も長く続いた。死傷者の数は、新聞を開くたび増えていった。死因の8割は家屋倒壊による圧死。あと少し揺れが続いたなら家は倒れ、私も家族も命を落としていただろう。あるとき、低い音に異常に敏感になっている自分に気がついた。たとえば戸外に車の振動が近づくだけで、胸の動悸が高まり、圧迫されるような不快感を覚える。その後の歳月の中にやがて薄れたその感覚は、東京で東日本大震災を経験したあと、再び体に宿ることになる。
日々の暮らしの中に、螺旋状の日常の中に、私たちは多くを埋没させてゆく。見過ごした兆しも、目を覆うような災禍も、辛い記憶も、消せない過ちも、いつしか薄れて消えたように振るまい生きている。だが穏やかに思えた歳月も、振り返ればつかの間の、一炊の夢でしかない。
現在とは、すなわち歴史である。水底に消えた光を、その影をも忘れず、うつし出すこと――。30年前を振り返るならば30年後を、80年前を思うならば今を、そして80年のちを。
揺れる世界の中で、まずは明日のために。
大洲大作
■サーティーラブ
明石雄、大洲大作、岡本光博、木村了子、久保沙絵子
3月8日~4月5日
MORE
取り扱い | eitoeiko |
---|---|
エディション | ユニーク |
サイズ | 81.0 x 54.0 x 3.5 cm |
素材 | ラムダプリント、額装 |
商品コード | 1100041916 |
配送までの期間 | 展覧会終了後約2週間 |
カテゴリー | |
購入条件 |