シカゴを拠点に活動するアメリカ人アーティストのニック・ケイヴ（Nick Cave）の作品集。本書は、2022年に「シカゴ現代美術館 （Museum Of Contemporary Art Chicago）」にて開催された展覧会に伴い刊行された。歴史や現在進行形の文化的危機に呼応しながらシフトし進化を続け、今絶頂期にある作者による、未発表の新作を含む決定版の作品集となっている。

本展は、作者のキャリアを網羅した初めての展覧会である。作者は、没入型インスタレーションやテクスチャーが特徴的な彫刻作品、非の打ちどころ無く精巧に作られたファッション作品、ダイナミックなビデオ、パフォーマンス作品といった、分野を跨いだ様々な作品群に精力的に取り組み、それらをコミュニティ形成と融合した数々のプロジェクトによって評価されている。本展においては、人気の高い「Soundsuits」シリーズの続編となる「Soundsuits 9:29」、何千ものキネティック・スピナーで構成されたサイトスペシフィック・インスタレーション「Spinner Forest」といった未発表の作品群も展示された。

美術史から社会正義まで幅広いトピックを扱った本書は、人種差別、ホモフォビア、その他の偏見によって「異なる者」として生きる人々への讃歌であり、正しい未来を描く方法としての芸術、音楽、ファッション、パフォーマンスといった表現に対する称賛でもある。

アメリカ人キュレーターのナオミ・ベックウィズ（Naomi Beckwith）、アメリカ人ライターのロミ・クローフォード（Romi Crawford）、アメリカ人作家、編集者、キュレーターのアントワウン・サージェント（Antwaun Sargent）、アメリカ人作家、アーティストのマリク・ゲインズ（Malik Gaines）、アメリカ人美術史家クリスタ・トンプソン（Krista Thompson）、アメリカ人パフォーミング・アーティストのメイダ・テレサ・マクニール（Meida Teresa McNeal）がそれぞれエッセイを寄稿している。

また作者へのインタビューも収録し、その人生や制作、教育に関して自身による解説を加えている。作者と共に、アメリカ人ダンサーのダミタ・ジョー・フリーマン（Damita Jo Freeman）、アメリカ人音楽家、作家、女優のノナ・ヘンドリックス（Nona Hendryx）、アメリカの出版社「Johnson Publishing Company」を主宰するリンダ・ジョンソン・ライス（Linda Johnson Rice）らがディスカッションを行い、作者の芸術が持つ影響力や、1971年から2006年までアメリカで放送されたソウル、ダンス音楽番組である「ソウル・トレイン（ Soul Train）」、1945年に創刊されたアフリカ系アメリカ人向けの月刊誌「Ebony Magazine」といった重要な文化現象について語った様子も収録している。デザインは作者のパートナーでもあるアメリカ人デザイナーのボブ・ファウスト（Bob Faust）が手掛ける。作者の多様な作品を通して、読者を没入型の旅へと誘う一冊。